原状回復ガイドラインをわかりやすく解説【負担区分一覧表付き】

原状回復ガイドラインをわかりやすく解説

「退去のときにクリーニング代6万円を請求された」「壁紙の全面張り替え費用を求められた」——こうした退去費用トラブルの相談は後を絶ちません。

一方で、退去時にどこまで借主が負担すべきかは、国土交通省のガイドラインで明確に示されています

この記事では、賃貸管理の現場で退去立会いに携わってきた宅建士の筆者が、原状回復ガイドラインの内容をわかりやすく解説します。

この記事でわかること
  • 国土交通省「原状回復ガイドライン」の内容をわかりやすく解説
  • 大家負担と借主負担の具体的な範囲【一覧表付き】
  • 経年劣化の考え方と退去費用の計算方法

この記事を書いた人
宅地建物取引士。東京都内で賃貸管理に従事。退去立会い・原状回復費用の清算業務を日常的に行っている。

目次

原状回復ガイドラインとは?【3分で理解】

国土交通省が作ったルールブック

原状回復ガイドラインとは、正式名称を原状回復をめぐるトラブルとガイドラインといい、国土交通省が策定したものです。このガイドラインでは、原状回復を次のように定義しています。

原状回復の定義
「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」

つまり、普通に生活していて自然に劣化した部分は大家負担借主の不注意や故意で傷つけた部分は借主負担というのが基本的な考え方です。

よくある誤解ですが、「原状回復=入居時の状態に戻すこと」ではありません。通常の使用による経年劣化は、家賃に含まれているというのがガイドラインの立場です。

法的拘束力はないが裁判の判断基準になる

ガイドライン自体は法律ではないため、直接的な法的拘束力はありません。しかし実際には退去費用をめぐる裁判や調停において、裁判所は原則としてこのガイドラインを判断基準とします。

つまり「ガイドラインに従わなくても罰則はないが、トラブルになったらガイドラインの基準で判断される」ため、管理会社や大家さんは、このガイドラインを意識した清算をしないと訴訟リスクを抱えることになります。

2020年民法改正で一部法制化

2020年4月施行の改正民法621条で、原状回復の基本ルールが法律に明文化されました。

民法621条(要旨)
賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負う。ただし、通常の使用及び収益によって生じた損耗並びに経年変化については、この限りでない

これにより、「通常使用による損耗や経年変化は借主の負担ではない」という原則が法律上も確定しました。ガイドラインの考え方が法律で裏付けられたことで、借主にとって大きな後ろ盾となりました。

大家負担 vs 借主負担【一覧表】

この章では、具体的に何が大家負担で、何が借主負担なのでしょうか。箇所ごとに見ていきましょう。

壁・天井(クロス)の負担区分

損耗・汚損の内容負担理由
日照による変色・色褪せ○ 大家負担通常の経年変化
テレビ・冷蔵庫裏の黒ずみ(電気ヤケ)○ 大家負担通常の使用による変色
画鋲・ピンの穴(下地ボードに達しないもの)○ 大家負担通常の生活の範囲内
タバコのヤニ汚れ・臭い× 借主負担通常の使用を超えている
釘穴・ネジ穴(下地ボードに達するもの)× 借主負担通常の使用を超えている
ペットによる引っかき傷× 借主負担通常の使用を超えている
落書き× 借主負担故意による損傷とされる
結露を放置したことによるカビ・シミ× 借主負担管理を怠ったと判断される

管理会社目線でのアドバイス
① 立会い前に穴の位置と本数を写真で記録する
「リビング3箇所・寝室2箇所」など事前に把握しておくと、後日届く請求書の妥当性を判断しやすくなります。

② 釘穴の自己補修は慎重に判断する
経験のないDIY補修は、かえって修繕費が高くなるケースもあります。不安な場合は手を加えず、立会い時にプロの査定を受けるのが結果的に安全です。

③ 立会い当日「画鋲穴と釘穴の区別」を明確に主張する
業者は時間に追われていることが多く、画鋲穴まで釘穴扱いで一括計上されるケースが見られます。事前に区別を整理しておくと、その場で請求の精査ができます。

床(フローリング・CF)の負担区分

損耗・汚損の内容負担理由
家具の設置跡(へこみ・跡)○ 大家負担通常の生活で避けられない
日照による変色○ 大家負担通常の経年変化
ワックスの剥がれ○ 大家負担通常の使用による劣化
椅子のキャスターによる傷・へこみ× 借主負担適切な保護措置を取っていないとされる
飲み物をこぼして放置したシミ× 借主負担管理を怠ったとされる
ペットによる傷・汚れ× 借主負担通常の使用を超えている
引越し作業でついた傷× 借主負担不注意による損傷とされる

管理会社目線でのアドバイス
部分補修か全面張替えかで請求額が大きく変わる
一部の損傷でも全面張替えが検討されるケースがあります。国土交通省ガイドラインでは、毀損部分の補修が基本的な考え方とされていますが、色味の差異や施工上の制約により全面張替えが必要と判断される場合もあります。請求内容に疑問がある場合は、施工範囲の理由や内訳の説明を求めましょう。


経過年数による減価償却を主張する
クッションフロア・カーペットは一般的に耐用年数6年とされ、経過年数に応じて価値は減少します。フローリングは建物の構造部分に該当するため単純な減価償却の対象とはされませんが、表面の摩耗や経年変化は考慮される要素となります。築年数や入居期間を踏まえ、請求額の算定根拠を確認しましょう。

水回り(キッチン・浴室・トイレ)の負担区分

損耗・汚損の内容負担理由
使用に伴う軽微な水垢・汚れ○ 大家負担通常の使用による劣化
浴槽・水栓の経年劣化○ 大家負担通常の経年変化
通常清掃で除去困難な油汚れ× 借主負担管理を怠ったと判断される
通常使用を超えるカビ汚れ× 借主負担管理を怠ったと判断される
通常清掃を怠ったことによる排水溝の詰まり× 借主負担管理を怠ったと判断される

管理会社目線でのアドバイス

① 自分でできる清掃は立会い前に済ませておく
シンクの水アカ・浴室のカビ・トイレの黄ばみは、事前に清掃しておくことでグッと印象がよくなり、住戸全体の評価や原状回復費用の判断に影響する可能性があります。

② ハウスクリーニング代の相場を把握しておく
1Kで2〜4万円、ファミリータイプで5〜8万円が一般的な相場です。請求内容に疑問がある場合は、見積書の内訳や作業範囲の説明を求めましょう。

③ 経年劣化は大家負担
浴槽の黄ばみ・コーキングの黒ずみ・洗面台の細かなひび等、通常使用の範囲内で生じた劣化は、原則として貸主負担です。請求内容に疑問がある場合は、国土交通省ガイドラインを参考に内訳の説明を求めましょう。

設備(エアコン・照明・建具)の負担区分

損耗・汚損の内容負担理由
エアコンの経年による効きの低下○ 大家負担通常の経年変化
照明器具の経年劣化○ 大家負担通常の経年変化
網戸の張り替え(破損なし)○ 大家負担通常の経年変化
鍵の交換(破損・紛失なし)○ 大家負担次の入居者のため
エアコン内部のカビ(清掃を怠った場合)× 借主負担善管管理を怠ったと判断される
鍵の紛失× 借主負担借主の過失
建具の破損(ドア・窓ガラスなど)× 借主負担不注意による損傷

管理会社目線でのアドバイス

不具合は連絡履歴を残す

入居中の不具合は、管理会社への連絡履歴が重要な証拠になります。未連絡だと「放置による悪化」と判断される可能性があります。

エアコン清掃は契約内容を確認

クリーニング費用は、契約書に特約があるかが判断基準です。記載がなければ、通常使用の範囲では借主負担にならないのが原則です。

鍵交換費用の二重請求に注意

入居時に鍵交換費用を負担している場合、同一目的で退去時にも請求されると二重の支払いになる可能性があります。契約内容を把握したうえで、請求理由を確認しましょう。

経年劣化の考え方 — 6年で残存価値1円

仮に借主負担になる損耗があったとしても、全額を負担する必要はありません。ガイドラインでは「経年劣化分は差し引く」というルールがあります。

耐用年数の一覧表

耐用年数該当する設備・内装ポイント
6年で価値はほぼゼロクロス(壁紙)
カーペット
クッションフロア(CF)
畳床(畳の芯部分)
エアコン(家庭用ルームエアコン)
入居6年以上なら故意・過失で損耗を生じさせても残存価値がないため、原則として請求されない。
15年で価値はほぼゼロ便器・洗面台などの給排水衛生設備耐久消費財として長めの設定。築15年以上の物件で破損があってもほぼ大家負担
経過年数を考慮しない畳表(畳の表面)
フローリング
・畳表は消耗品扱いで張替え相当額が請求されやすい。
・フローリングは毀損部分のみの補修が原則。部分補修費のみが借主負担で、部屋全体の張替えは大家負担。
建物の耐用年数に準じるユニットバス木造22年・鉄筋コンクリート47年など。築年数が古いほど借主負担額が小さくなる

クロス6年・フローリング部分補修の考え方

最も退去費用でトラブルになるのがクロス(壁紙)です。クロスの耐用年数は6年であるため、入居して6年が経過すると、ガイドライン上の残存価値は1円になります。つまり、6年以上住んだ場合は、たとえ壁紙を汚しても借主の負担はほぼゼロに近いということです。

一方で、フローリングは耐用年数の概念を適用しません。ただし、損傷箇所が限定的な場合は部分補修を行うのが基本的な考え方です。部屋全体の張り替え費用を請求された場合は、施工範囲の必要性を確認し、ガイドラインに照らして妥当性を判断しましょう。

シミュレーション:入居4年でクロスを汚損した場合

具体的な計算例を見てみましょう。

条件
– 入居期間:4年
– 損傷内容:タバコのヤニでクロスが変色(借主負担に該当)
– クロス張り替え費用:6万円(ワンルーム、新品価格)

計算方法

クロスの耐用年数は6年です。入居4年の場合、残存価値は以下のようになります。

残存価値の割合 = (耐用年数 − 入居年数)÷ 耐用年数
              = (6年 − 4年)÷ 6年
              = 2/6 ≒ 約33%

借主の負担額 = 6万円 × 33% = 約2万円

張り替え費用は新品施工を前提に算出されますが、経過年数に応じて価値は減少するため、借主は残存価値分のみを負担します。つまり、新品価格の6万円ではなく、約2万円が借主の適正な負担額となります。

注意点
管理会社や大家さんが経年劣化を考慮せず、新品価格の全額を請求してくるケースが少なくありません。請求書を受け取ったら、入居年数に応じた減額がされているか必ず確認しましょう。

退去費用の具体的な相場や交渉のコツについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

賃貸の退去費用相場と交渉術【宅建士が解説】

特約の有効性 — どこまで従う必要がある?

賃貸借契約書に「退去時のクリーニング費用は借主負担」などの特約が記載されていることがあります。「契約書にサインしたから従わないといけないのでは?」と思うかもしれません。

サインは「契約として成立した」ことにはなりますが、法律に反したり、原状回復ガイドライン・消費者契約法に反する特約は、無効または一部無効と解釈される可能性があります 。

有効な特約の3要件

ガイドラインでは、借主に通常以上の負担を課す特約が有効となるためには、以下の3つの要件すべてを満たす必要があるとしています。

  1. 特約の必要性があり、かつ暴利的でない等の客観的・合理的理由が存在すること
  2. 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  3. 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

簡単に言えば、「借主がその特約の内容をきちんと理解し、納得したうえで合意している」ことが必要です。

無効になった判例

実際に特約が無効と判断された裁判例を紹介します。

判例1:ハウスクリーニング特約が無効になったケース

契約書に「退去時のハウスクリーニング費用は借主負担」と記載されていたが、具体的な金額が明示されておらず、契約時に十分な説明もなかった。裁判所は「借主が負担の範囲を認識できていなかった」として特約を無効と判断された。

判例2:通常損耗の借主負担特約が無効になったケース

「退去時に壁紙の全面張り替え費用を借主が負担する」という特約。通常損耗まで含めた過度な負担であり、具体的な説明もなかったため、特約は無効と判断された。

ポイント
特約があっても金額が具体的に明示されていない場合や、契約時に口頭での説明がなかった場合は、無効になる可能性があります。

契約前に確認すべきポイント

これから賃貸契約を結ぶ方は、以下の点を必ず確認してください。

  • 特約の内容:原状回復に関する特約が契約書のどこに書いてあるか
  • 具体的な金額:「クリーニング費用○万円は借主負担」のように金額が明示されているか
  • 口頭での説明:重要事項説明のときに、特約の内容について説明を受けたか
  • 特約の範囲:どこまでが借主負担なのか明確か

入居中の方へ
すでに入居中で契約書の内容が気になる方は、手元の契約書を確認してみましょう。特約に具体的な金額が書かれていない場合や、契約時に説明を受けた記憶がない場合は、退去時に交渉の余地がある可能性があります。

退去費用トラブルの相談先

「請求された退去費用が高すぎる気がする」「ガイドラインと違う請求をされている」——そんなときに頼れる相談先を紹介します。

消費者センター(188)

まずは消費生活センターに相談しましょう。

  • 電話番号188(いやや)
  • 相談料:無料
  • 対応内容:退去費用の妥当性や管理会社への交渉方法など

消費生活センターは、原状回復トラブルの相談を多数受けており、ガイドラインに基づいた的確なアドバイスがもらえます。

法テラス

弁護士への相談が必要だと感じたら、法テラス(日本司法支援センター)を利用しましょう。

  • 電話番号0570-078374(おなやみなし)
  • 相談料:収入要件を満たせば無料
  • 対応内容:法的なアドバイス、弁護士・司法書士の紹介

退去費用が高額で、管理会社との交渉が難航している場合に特に有効です。

少額訴訟(60万円以下)

交渉しても解決しない場合、少額訴訟という選択肢があります。

  • 対象:請求額が60万円以下の金銭トラブル
  • 費用:訴額の約1%(例:30万円の訴訟なら手数料3,000円)
  • 期間:原則1回の審理で判決が出る(通常の裁判より圧倒的に早い)
  • 弁護士:不要(本人だけで手続き可能)

少額訴訟の現実
実務上、少額訴訟を起こすと伝えただけで、管理会社が減額に応じるケースも多いです。「裁判になるくらいならガイドラインに沿って精算し直す」という判断になるからです。

退去費用の相場感を事前に把握しておくと、不当な請求に気づきやすくなります。

退去費用の相場はいくら?間取り別の目安と交渉術を宅建士が解説

まとめ:退去前に知っておくべき3つのこと

退去時に損をしないために、押さえておきたいポイントは次の3つです。

1. 通常の使用による経年劣化は大家負担
2. 借主負担になる場合も、経年劣化分は差し引かれる
3. 特約があっても無効になるケースがある

具体的な金額が明示されていない特約や、契約時に十分な説明がなかった特約は、裁判で無効と判断される可能性があります。「契約書に書いてあるから」と諦める必要はありません。

退去費用は、知識があるかないかで数万円の差が出ます。「なんとなく高い気がするけど、よくわからないから払ってしまった」——そんな後悔をしないために、ガイドラインの基本は押さえておきましょう。

退去前の清掃を自分でやる時間が取れない、または「立会い前にプロに任せて確実に費用を抑えたい」という方には、引越し時の原状回復に特化したハウスクリーニング業者の利用もおすすめです。

たとえばミガクるは、引越しに伴うハウスクリーニング専門で、退去時のキッチン・浴室・トイレ・換気扇など水回りを中心に対応しています。管理会社が手配する清掃業者より割安になるケースも多く、自分で立会い前に済ませておけば「ハウスクリーニング代として◯万円」という退去費用の上乗せを回避できる可能性があります。

借主負担で清掃する場合でも、賃貸借契約書に「ハウスクリーニング特約」がある場合は、自分で清掃しても費用が請求されることがあります。契約書を必ず確認してから依頼してください。

退去費用の具体的な相場感や、管理会社との交渉の進め方については、以下の記事で詳しく解説しています。

賃貸の退去費用相場と交渉術【宅建士が解説】はこちら

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ご注意
本サイトは情報提供を目的としており、個別の法律相談・契約相談はお受けしておりません。具体的な事案は、法テラス国民生活センター(消費者ホットライン:188)/各自治体の消費生活相談窓口、または弁護士・行政書士等の専門家へご相談ください。

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